今日は祭りだ祝杯を

知れば知るほど好きになる

すべての人に送る人生賛歌 〜祈りの物語、「カムカムエヴリバディ」〜

 

NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の放送が終わった。

1話から最終話まで1日たりとも欠かさず遅れず見ることが出来た。いつもどこかで途中離脱してまた戻って来る、という朝ドラの見方をしていた私にとって本当に異例なことだし自分自身がびっくりしている。この作品に対する自分なりの総括を一旦記したいと思う。

 

※初代ヒロイン安子の夫である稔さん役の松村北斗(及びSixTONES)という新たな推しジャンルの出会いにもなったのも既に懐かしい。その話は↓

haroharo23.hatenablog.com

 

 

カムカムの世界は結構シビアだ。例えば、

  • 戦争で無くなってしまった実家の和菓子屋「たちばな」を再興することは出来ない。
  • トランペットがまた吹けるようにはならない。
  • ずっと殺陣を稽古し続けても時代劇スターにはなれない(それどころかやさぐれて起こした騒動で自らチャンスの芽を摘む)。

しかし同時に必ず救いがある。

  • 戦後の闇市でおはぎを食べた少年がまた新たに和菓子屋「たちばな」を立ち上げる。
  • トランペットが吹けなくなったジョーはもがき続けた後、ジャズピアニストへの道を歩みだす。
  • 条映を辞めた文四郎(文ちゃん)はその後ハリウッドに渡りアクション監督になる。

その救いは単なる奇跡とかではなく、叶わなかった夢に対して努力したことによってもたらされる。私がこのドラマで一番好きなポイントはここだった。

 

「みんな、間違えるんです」(107話)

この台詞から分かる通り、「カムカムエヴリバディ」には挫折や失敗した人間に対してある種の優しさを感じた。今必死に頑張っていることが身を結ぶとは限らない。失敗するかもしれない。しかし生きていれば、その頑張りが何かの役に立つことがあるかもしれない。失敗にリベンジ出来る日が来るかもしれない。だからこその「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」だし「それでも人生は続いていく」なのである。

とにかく「生きる」ことを肯定し続けたドラマだと思う (と同時に若くして戦争で亡くなってしまった稔さんの無念さ・哀しさが際立つ)。

 

思い返すと、戦争がひたひたと近付いてくる描写が本当に怖かった。英語の授業がドイツ語の授業になる、野球道具が手に入りにくくなる、タバコの銘柄が英語→日本語表記になる、店先のショーケースにある和菓子の種類が減る、ラジオ英語講座が無くなる、徴兵年齢が下げられる……本当に少しずつ、少しずつ近付いて来る。真綿で首を締めるように。これほど戦争の恐ろしさを肌感で感じたことは正直なかった。

今思うと戦争は否応なしに「生きる」を人から奪うものだからこそ、恐ろしさが徹底的に描かれたのだと思う。

 

そして、この物語のテーマの1つであるラジオ英語講座。色んな講座が出て来た中でも『カムカム英語』がタイトルの由来になっていることが、戦後初めて安子がるいと聴いた講座だと分かっていても自分の中であまり腹落ちしていなかった(聴いている期間そんなに長くないし……)。

そんな中迎えた97話。個人的にこの物語の象徴的な回だと思っている。

97話を端的に表すと、「終戦記念日にるいが自分の父親である稔さん(亡くなっている)と、ひなたが『カムカム英語』の講師である平川唯一(亡くなっている)と会ってメッセージを受け取る」である。稔さんは分かるけど平川先生は何で縁もゆかりも無いのに出て来る?となりそうだが、私は稔さんと平川唯一を並行して出したことに意味があると思っている。

 

さだまさし演じる平川唯一は太平洋戦争の終結を知らせる玉音放送の英語訳・朗読を行ったことを明かし『カムカム英語』の講師になった経緯を話す。ラジオを通して、英語を通して明るく楽しい暮らしを取り戻して欲しかった、と。

この時やっと理解出来た。平川唯一は『カムカム英語』に(戦争と真反対の存在である)平和への祈りを込めたのである。『カムカム英語』を筆頭とするラジオ英語講座は平和への祈りのメタファーだったのだ。また同時に、稔さんは若くして戦争により「生きる」を奪われてしまった存在であることから、こちらも平和への祈りのメタファーなのは明らかである。

 

そして『カムカムエヴリバディ』は「生きる」ことを肯定し続けることからも分かるように、平和への祈りが込められたドラマである。だからこそ稔さんと平川唯一が並列で描かれ、『カムカム英語』がタイトルの由来になったのだと。ようやく「ラジオ英語講座」と「平和への祈り」、この2つの要素が自分の中でリンクした瞬間だった。

 

人生を送っていく中で、「やってらんねーな!!!!」と叫びたくなる時もあるし、取り返しのつかないことをして「終わった……」と目の前が真っ暗になる時もある。絶望してもう歩みを止めたくなる時もある。そんな時にそっと寄り添い優しく背中を押してくれる、『カムカムエヴリバディ』はそのようなドラマだと思う。

 

このようなメッセージ性に加え、美しい映像と音楽に彩られた『カムカムエヴリバディ』は私にとって大切な宝物のような存在になった。この作品に関わられたキャスト・スタッフの皆様には感謝してもしきれない。本当にありがとうございました。

 

物語は終わってしまったけれども、私の人生はまだ続く。

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未来なんてわからなくたって、生きるのだ。

 

 

 

 

p.s.メモリアルブックとファンブック、出版してくれませんか……?